チョコレート原料から見る食品ロス問題

チョコレート原料から見る食品ロス問題

チョコレートと聞くと、カカオ豆を発酵させ、乾燥させ、焙煎し、細かく砕いてチョコレートに加工する工程を思い浮かべる人が多いのではないでしょうか。

しかし、その裏側では、チョコレートそのものには使われない「カカオハスク」と呼ばれる部分が生まれています。

カカオハスクとは、カカオ豆の外側を覆っている薄い皮のこと。カカオ豆を焙煎してから砕き、風などを利用して中身の「カカオニブ」と皮を分離する「ウィノワリング(風選)」という工程で取り除かれます。

これまでカカオハスクは、チョコレートを作るためには不要な部分として扱われることが多く、廃棄、堆肥化、飼料などに回されるケースがありました。

ところが現在、このカカオハスクを「捨てるもの」ではなく「新しい原料」として捉え直す動きが広がっています。カカオハスクティー、食品素材などへの活用をはじめ、Bean to Barブランドが自社の製造工程から生まれる副産物をアップサイクルする事例も登場しています。


カカオハスクとは?チョコレートになるまでの流れを知ろう

まずは、カカオハスクがどのように生まれるのかを理解しておきましょう。

チョコレートの原料となるカカオ豆は、カカオの果実「カカオポッド」の中に入っています。

収穫されたカカオポッドからカカオ豆を取り出した後、一般的には発酵・乾燥などの工程を経て、チョコレートの原料として加工されます。

カカオポッド → カカオ豆 → 発酵 → 乾燥 → 焙煎 → 粉砕・風選 → カカオニブ → チョコレート

ここでポイントになるのが「粉砕・風選」の工程です。

焙煎したカカオ豆を砕くと、中心部分の「カカオニブ」と、その周囲を覆っていた「カカオハスク」に分かれます。

カカオニブは、チョコレートの香りや味わいを決める重要な原料です。一方、ハスクはチョコレートの主原料としては基本的に取り除かれます。


カカオハスクはカカオ豆の何%?

「カカオハスクはカカオ豆の何%なのか?」という疑問は、食品ロスを考えるうえで重要なポイントです。

研究論文では、カカオハスクはカカオ豆重量の約10〜20%を占めるとされています。研究によっては10〜17%程度という数字も示されています。

例えば、100kgのカカオ豆を加工した場合、単純計算ではおよそ10〜20kg程度がカカオハスクになる可能性があります。

もちろん、実際の量はカカオ豆の品種、産地、発酵・乾燥状態、豆の大きさ、加工方法などによって変動します。

一方で、カカオの「果実全体」に目を向けると、さらに大きな数字が見えてきます。

カカオポッドの重量に占めるカカオ豆は、おおむね20〜30%程度とされ、残りの大部分は果皮や果肉などの副産物です。


「食品ロス」と「食品副産物」は同じではない

ここで注意したいのが、「カカオハスク=食品ロス」と単純に言い切らないことです。

食品ロスという言葉は、一般的には本来食べられるのに廃棄される食品を指します。

カカオハスクの場合、チョコレート製造においては、カカオニブを取り出すために分離される「副産物」という側面があります。

重要なのは、

「分離されたカカオハスクを、その後どう扱うのか?」

ということです。これまで廃棄されていたものを、別の商品や原料として活用できれば、同じカカオから生み出せる価値を増やすことができます。この考え方が「アップサイクル」です。


カカオハスクが注目される理由

カカオハスクは、単なる「チョコレートの皮」ではありません。

研究では、カカオハスクには食物繊維、ポリフェノール、フェノール化合物、テオブロミンなど、さまざまな成分が含まれることが報告されています。

また、カカオ豆の加工工程で生まれるため、カカオ特有の香りを持っていることも特徴です。

焙煎されたカカオハスクからは、香ばしさやカカオを思わせる風味を感じることがあります。

そのため、カカオハスクは「廃棄物」という見方だけではなく、「カカオ由来の香りを持つ素材」として捉えることができます。


カカオハスクから生まれる「もう一つのカカオ体験」

カカオハスクの魅力は、チョコレートを作るために使われる「カカオニブ」とは異なる価値を持っていることです。

カカオニブは、濃厚なカカオ感やほろ苦さ、香ばしさ、食感などを楽しむ素材です。

一方、カカオハスクは、より軽やかな香りを活かした使い方ができます。

代表的なのが「カカオハスクティー」です。

カカオハスクをお湯で抽出することで、カカオ由来の香ばしい香りを楽しむことができます。

また、カカオハスクの香りを活かして、食品以外の用途を考えることもできます。

このように考えると、カカオハスクのアップサイクルとは、単に「捨てる量を減らす」という話ではありません。一つのカカオから、複数の価値を生み出すことなのです。


世界ではカカオ副産物の「価値化」が進んでいる

カカオハスクの活用は、一部の研究だけでなく、実際の商品開発にも広がっています。

海外のチョコレートブランドでは、カカオハスクをティーや発酵飲料などに活用する取り組みがあります。

また、カカオポッド全体を活用する循環型モデルを掲げる企業も登場しています。カカオポッドのさまざまな部分を活用し、従来廃棄されていた部分にも価値を与えるという考え方です。

こうした取り組みから分かるのは、サステナブルなチョコレートづくりが「環境に配慮した原料を買う」という段階から、「一つのカカオから、どれだけ多くの価値を生み出せるか」という発想へ変化していることです。


日本でも始まっているカカオハスクのアップサイクル

日本でも、カカオハスクを新しい商品へ生まれ変わらせる取り組みが始まっています。

例えば、チョコレート製造時に出るカカオハスクを新しい原料として活用し、カカオティーやカカオを使った食品などへ展開する事例があります。

また、国内のBean to Barブランドでも、自社の製造工程で発生するカカオハスクをアップサイクルする動きがあります。

これは非常に重要な事例です。

なぜなら、自社でチョコレートを製造するブランドにとって、カカオハスクは「遠い場所で発生している食品廃棄物」ではなく、日々の製造工程から実際に生まれる副産物だからです。自社で発生量を把握し、その素材を商品化することで、製造工程そのものをブランドストーリーに変えることができます。


Bean to Barとカカオハスクの相性が良い理由

カカオハスクのアップサイクルを考えるうえで、Bean to Barという製造スタイルにも注目できます。

Bean to Barとは、カカオ豆の選定から焙煎、粉砕、磨砕、成形までの工程にブランド自身が関わり、カカオ豆からチョコレートを作るスタイルです。

産地や品種、発酵、焙煎などの違いを商品価値として伝えやすいことが特徴です。

そして、カカオ豆を自社で焙煎・粉砕する場合、必然的にカカオハスクが発生します。

つまり、

カカオ豆を深く知る

カカオハスクも知る

副産物にも価値を見つける

という流れが生まれやすいのです。


「サステナブルなチョコレート」は原料だけでは決まらない

サステナブルなチョコレートというと、フェアトレードや有機栽培、森林保全など、カカオ豆の生産段階に注目することが多いでしょう。

もちろん、これらは非常に重要です。

しかし、チョコレートが完成するまでには、栽培、収穫、発酵、乾燥、輸送、焙煎、粉砕、製造、販売という長い工程があります。

その中で発生する副産物について考えることも、持続可能な食品づくりの一部です。

特にカカオハスクは、チョコレートを製造する際にまとまった量が発生するため、活用方法を考える余地があります。


カカオハスクのアップサイクルは「食品ロス削減」だけではない

カカオハスクを活用するメリットは、食品ロスや廃棄物の削減だけではありません。

1.廃棄物の削減

これまで廃棄されていたカカオハスクを、別の商品や素材として利用することで、廃棄される副産物を減らせます。

2.原料の有効活用

一つのカカオ豆からチョコレートだけでなく、飲料や食品素材など複数の価値を生み出せます。

3.ブランドストーリーになる

「カカオ豆を余すことなく活用する」という考え方は、サステナブルなブランドづくりと親和性があります。

4.新しい商品開発につながる

カカオハスクならではの香りや特徴を活かすことで、従来のチョコレートとは異なる商品カテゴリーを開拓できます。


食品メーカーや飲食店にも広がる可能性

カカオハスクの活用は、チョコレートメーカーだけに限られません。

例えば食品メーカーであれば、カカオハスクを活用した飲料や焼き菓子、調味料などの商品開発が考えられます。

飲食店であれば、カカオハスクティーやデザート、ソースなどに活用することで、通常のチョコレートとは異なるカカオ体験を提供できます。

カフェであれば、コーヒーとは異なる「カカオの香りを楽しむ飲み物」として提案することもできます。

また、ホテルやショップ、観光施設などでは、「カカオを余すことなく活用する」というストーリーを商品や体験に組み込むことも可能です。

ただし、食品としてカカオハスクを利用する場合は、原料の衛生管理や残留農薬、微生物、異物などの安全性、用途に応じた法令・規格への適合などを確認する必要があります。食品として利用する場合は、適切な品質管理と用途に応じた安全性の確認が重要です。


カカオハスクを「捨てない」から「価値をつくる」へ

カカオハスクについて考えるとき、大切なのは「廃棄量を減らす」という発想だけではありません。

より重要なのは、

「これまで価値がないと思われていたものに、
どのような価値を見つけられるか」

という視点です。

カカオ豆の外側にある薄い皮。チョコレートだけを見ていれば、不要なものに見えるかもしれません。

しかし、そこにはカカオ由来の香りがあり、食物繊維やポリフェノールなどの成分も含まれています。

つまり、カカオハスクは「チョコレートになれなかったもの」ではありません。チョコレートとは別の形で、もう一度カカオの価値を届けられる素材なのです。


これからのチョコレートは「カカオをどこまで活かすか」が重要になる

これからのチョコレートづくりでは、「どんなカカオ豆を選ぶか」だけでなく、「そのカカオをどこまで活用するか」という視点がさらに重要になるでしょう。

産地や品種、発酵、焙煎にこだわったカカオ豆からチョコレートを作る。そして、その工程で生まれたカカオハスクにも新しい価値を与える。

さらにカカオポッドの果皮や果肉など、チョコレートになる前の副産物にも目を向ける。

こうした取り組みが積み重なることで、カカオをより循環的に利用する仕組みにつながっていきます。

「チョコレートを作るためにカカオを使う」のではなく、「カカオという植物から、できるだけ多くの価値を生み出す」。これは、サステナブルなチョコレートの未来を考えるうえで、大きなヒントになるのではないでしょうか。


まとめ|カカオハスクは「食品ロス」から「次の価値」へ

チョコレートを作る過程では、私たちが普段目にすることのないさまざまな副産物が生まれています。

その一つがカカオハスクです。

カカオハスクはカカオ豆重量の約10〜20%を占めるとされ、チョコレート製造時には一定量が発生します。

これまでは廃棄や低付加価値用途に回ることもありましたが、現在ではカカオハスクの香りや成分を活かし、カカオハスクティー、食品、飲料などへアップサイクルする取り組みが始まっています。

そして、Bean to Barブランドのようにカカオ豆の加工工程そのものを大切にする企業にとって、カカオハスクは「廃棄物」ではなく、ブランドの考え方を伝える素材にもなります。

サステナブルなチョコレートとは、単に環境に配慮したカカオ豆を選ぶことだけではありません。

カカオを育て、運び、加工し、
そして残った部分までどう活用するのか。

そのすべてを考えることが、これからのチョコレートづくりには求められています。

一粒のカカオ豆から生まれるのは、チョコレートだけではありません。

カカオハスクにも、まだ知られていない価値があります。

「捨てる」から「活かす」へ。

カカオハスクは、チョコレート産業が食品ロスやサステナビリティについて考えるための、小さくても重要な入り口なのです。

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