【INDONESIA ENREKANG インドネシア・エンレカン】
生産者 / サハルディン Saharuddin
農園 / マレレ Malele famrers community
産地 / エンレカン県 South Sulawesi Enrekang
生産国 / インドネシア
品種 / トリニタリオ種 S1, S2, 01, LOCAL
精製方法 / ボックス法
標高 / 約1,000m
世界第3位の世界屈指のカカオの生産量を誇るインドネシア。中でもスラウェシ島は国内の多くのカカオの生産量を担っているという。そんな南スラウェシ島北端に位置するエンレカン県は、標高1000m近い山々に囲まれ、多様な熱帯植物や生物が生息する自然豊かな土地だ。カカオの栽培としては標高は高めだが、昼夜の寒暖差によりカカオの実はゆっくりと成熟し、糖度の高いカカオを生産することができるといわれている。
一方で、エンレカン県を含む多くのインドネシアのカカオを生産する農家は複数の農作物を育てながらカカオを生産する小規模農家がほとんどだ。そのため1つずつの単一の農作物の品質が向上しにくい傾向にあり、国際的にもインドネシアのカカオの多くは低品質で、低価格という印象を受けているが、Whosecacaoは現地の農家の人たちとコミュニケーションを取りながら風味溢れる高品質なカカオを作っている。
【世界屈指のカカオ生産国インドネシア】
インドネシアはコートジボワール、ガーナに次ぎ世界第3位の生産を誇り、高品質なカカオの栽培に適した環境を有している世界屈指のカカオ生産国だ。一方で世界屈指のカカオ生産国にも関わらず、そのポテンシャルを十分に発揮できておらず、またインドネシア産のカカオ豆は僅かしか日本に輸入されていないため、インドネシアのカカオの魅力を伝えきれずにいる。
インドネシアを含む多くの東南アジアのカカオ豆を生産している農家のほとんどは小規模農家であり、複数の農作物を育てていることが多く、1つずつの単一農作物の品質が向上しにくい傾向にある。そのためカカオ農家の人たちが香り豊かなカカオを作るために必要な工程である発酵のさせかたによって風味が大きく変化することを知らない点、もしくはその方法が確立できていない点や、高品質の良いカカオを作ったからといって高値で取引してもらえない点、そもそも取引相手がいないことが、これまで品質が向上しなかった理由としてある。言い換えればインドネシアのカカオは品質を上げる余地は大いにある。
【カカオを生産するエンレカンの小規模農家たち】
スラウェシ島中央の山間部、コーヒーで有名なトラジャの空港から山道を40分ほど車に揺られた先に、本記事の舞台であるWhosecacaoが協働するカカオの産地「エンレカン県」にたどり着く。エンレカン県はスラウェシ島南西半島部に位置し、スラウェシ島最高峰「ランてマリオ山(3,478m)」の西方に位置し、1,000m近い標高の山々に囲まれた土地だ。通常のカカオ農園に比べ比較的標高の高いところで栽培されているが、昼夜の寒暖差により生産量は少ないながらも虫害が少なく、カカオの実はゆっくりと成熟し、糖度の高いカカオを安定して生産することができる。Whosecacaoではエンレカンの中でも熱意のある農家と協力し、エンレカンで新しい産業をつくるべく高品質のカカオを開発・生産をしている。
エンレカンでは40年ほど前からカカオの生産を行っている。カカオ農園の周辺にはドリアンやバナナ、松、チャンチン(香椿 )、ボルネオテツボク、白いチークなど多種多様な熱帯植物や生物が生息し、他のインドネシアのカカオ農家同様に複数の農作物を育てながらカカオを生産している小規模農家がほとんどだ。Whosecacaoが協働する農園でも多くの動植物が共存する森林の中にカカオの木が生え、カカオ以外にもコーヒー、クローブ、ドリアン、ココナッツなど様々な農作物を育て、それらを収穫し、麓の街で売りながら生計を立てている。多くのエンレカン県の農家にとって、このように穫った農作物がキャッシュフローとして早く回ることが重要だという。そのため高品質なカカオの生産を行うには発酵の固定は必要不可欠なのだが、エンレカンでは商品となるまでに時間を要する発酵を行わずに直接乾燥を行っていた。
【発酵から生まれるカカオの個性】
発酵は時間も手間もかかるが、高品質で個性豊かな風味をつくるためには必要不可欠な工程だ。カカオはカカオポッドを収穫後、中から甘く白いパルプに包まれたカカオの種子を取り出し、糖が含まれたパルプは、イースト菌やバクテリアの働きで分解され、アルコールとなり、発酵が行われる。この発酵過程でカカオの種子の中の成分が変化し、カカオ豆の香りの成分が熟成される。どんなに農作物として質の高いカカオを栽培したとしても適切な発酵を行わなければせっかくのエンレカンでしか生まれない風味が台無しとなってしまう。
代表的な発酵方法としては大きく「ヒープ法」と「ボックス法」の2種類の方法がある。ヒープ法は伝統的な方法として、カカオの産地で容易に手に入るバナナの葉でカカオの種子を包んで発酵させる。多くのカカオ農園ではこの手法で発酵を行うのだが、気温の温度変化や気候、虫害などの外的要因の影響を受けやすく、安定した生産を行うことが難しい。もう1つは種子を木箱等にいれ発酵させる「ボックス法」があり、Whosecacaoではボックス法を農園で推奨している。ボックス法では雨や温度変化などの外的要因の影響を受けづらく、また温度計やPh計などのセンサーなども取り付けやすいため、発酵の管理を行えるため、安定して高品質なカカオを生産することができる。Whosecacaoではこれらの温度やpH値を定期的に測定しながら発酵を行い、発酵の進行を管理しながらカカオ豆を生産している。
カカオの発酵方法はまだ発展途上だ。例えばカカオの生産に似ているコーヒーの世界ではナチュラル製法、ウォッシュド製法、ハニープロセス、アナエロビック・ファーメンテーションなど、様々な発酵方法が生まれ、コーヒーの個性の幅が広がった。カカオの発酵方法はまだコーヒーなどに比べ、発展途上であり、カカオの発酵方法に関する資料もまだ少ない。言い換えれば、カカオはまだまだみたこともない味わいをつくることが可能であるだろうし、インドネシアらしい味わいをもっと発酵によって追求ができるはずだ。Whosecacaoではより高品質で、エンレカンだけしか作れないカカオの風味を生み出すために発酵に着目し、農家の人たちと様々な発酵方法を試している。
これまでエンレカンでは例え発酵を行ったとしても未発酵のものと買値があまり変わらなかった。そこでWhosecacaoではエンレカンのカカオの品質を上げつつも、農家の人たちと製造者/消費者の中間にしっかりと立ち、発酵させるための設備等の設備投資を行いながら、発酵の工程を行った高品質なカカオは未発酵のものより価格差を出している。結果として周辺のカカオ農家の人たちもおのずから発酵を行いはじめ、カカオに対する意識が変わりつつあり、またそんなエンレカンのカカオを様々な人たちに美味しいと感じてもらえることは、とても嬉しく思う。
【生産者と製造者/消費者の架け橋として】
Whosecacaoがエンレカンと協働して今年で5年が経ち、ロンドンで行われるInternational Chocolate Awardではドリンク用カカオマスやナチュラルココアパウダーが表彰を受け、ラグジュアリーホテルのアマン東京で採用されるなど国内外から高く評価され、エンレカンのカカオを生産する農家の人たちの意識も変わりつつある。一方でまだ多くの課題がある。世界屈指である生産量を誇るインドネシアだが、カカオの樹齢の老化、ココア・ポッド・ボーラー(CPB)による病害虫やブラックポッドによる病気、それに追い討ちをかけるように地球温暖化や異常気象によりカカオの収穫が不安定な状態となっている。インドネシア政府もカカオ豆の品質や収量を高める努力が十分になされておらず、満足な営農指導も行われていないのが現状だ。そういった状況の中でインドネシアのカカオは今まで以上に、品質を高め、各課題に対して1つ1つ対策を行わなければならない。Whosecacaoとしても品質と生産性を向上させるためには、継続的な取引を増やし、流通量を最大化する必要性があり、同時にエンレカンを含むインドネシアのカカオをこれから先も楽しめるように環境に配慮した試みを行わなければならない。エンレカン県は非常に美しく、そこに住む人たちも素晴らしい方々ばかりだ。カカオをただ取り扱うだけではなく、カカオを通して生産地の風景、そこで働く人たちなど、カカオの美味しさの背景に広がる物語を皆さんに伝えていき、生産者と製造者、そして消費者との架け橋となっていきたいと思う。