Bean to Barはカカオ農家の最適解ではない

Bean to Barはカカオ農家の最適解ではない

フーズカカオの福村です。煽りタイトルですが、農園側の人間として伝えるべきだと思って筆をとりました。

Bean to Barをやっているチョコレートメーカーさんやその商品を買う消費者のみなさんに知っておいてほしい数字的な話をひとつ。

※この話は僕らが活動するインドネシアスラウェシ島エンレカン県での知識をもとにしているので他の地域でも全く同じということはないことをご承知おきください

 

ファインカカオは農園での買取価格がバルクカカオに比べて高いのは事実

従来の商社さんが仕入れる物量の多いカカオ豆をバルクカカオ(Bulk Cacao)と呼びます。

一方でBean to Barを行う事業者さんが仕入れる品質が高く、風味の良いカカオ豆をファインカカオ(Fine Cacao)と呼びます。

Bean to Barではファインカカオを使います。ファインカカオは品質が高い分、農家さんにはその分高いお金を支払います。

例えば、ぼくらが活動するエンレカンではバルクカカオは200~250円/kgほど。ファインカカオなら約400円/kg~の価格を支払います。

これらは事実です。ですので、単純に考えれば全部ファインカカオにすると農家さんの収入は2倍程度まで上昇するのでは?と考えます。

だから、全部ファインカカオでつくればいいじゃんと思います。

ところが

 

時間の罠

バルクカカオとファインカカオの生産には圧倒的な時間的コストの差があります。

ファインカカオをつくるためには、

選別

良い発酵

丁寧な乾燥

の3つが必要です。

工程を簡単に整理すると

<バルクカカオをつくるとき>

収穫→発酵(1~2日間)→乾燥(5日程度)

という工程を行い

<ファインカカオをつくるとき>

収穫→選別→発酵(6~7日間)→乾燥(7日〜10日間)→選別

という工程を行います。

つまりバルクカカオ生産にかかる時間は7日程度

ファインカカオ生産にかかる時間は2週間以上かかっています。

すぐに現金が欲しい農家さんにとってファインカカオをつくる余裕はありません

 

選別と乾燥の罠

ファインカカオをつくるとバルクカカオに比べて生産量が落ちます。

これは乾燥と選別の工程が大きく関わってきます。

まず、ファインカカオはバルクカカオに比べてちゃんと乾燥させます。

バルクカカオは水分量15%程度でも市場で買い取ってもらえますが

ファインカカオは発酵(微生物の活動)をストップさせるため、そして輸出するために水分量7~8%までちゃんと乾燥させます。

実際に数字の上でパルプ(果肉)のついたカカオ豆100kgをバルクカカオにしてみましょう。果肉のついたものをwet、乾燥後をdriedと呼びます。

<バルクカカオの場合>

最終的に買取価格200円/kgで買い取る

wet100kg分からスタートし

選別後(sorted) のこり90kg

発酵&乾燥後(dried)重量4/9まで減る→ のこり40kg

乾燥後、選別は基本的にしないので

<バルクカカオの結果的な収入>

40kg*200円=8,000円

となります

次にカカオ豆100kgをファインカカオにしてみましょう。

<ファインカカオの場合>

最終的に買取価格400円/kgで買い取る

wet100kg分からスタートし

選別後(sorted) のこり80kg(虫食いなど汚い豆を綺麗に除くため)

発酵&乾燥後(dried)重量1/3まで減る→ のこり27kg

2回目選別後(sorted) のこり25kg(欠点豆10%を再度選別)

<ファインカカオの結果的な収入>

25kg*400円=10,000円

となります。

このとき選別した汚い豆だけでは市場でも売れませんが、他のバルクカカオに混ぜることで市場のバイヤーさんに売ることができます。


時間を2倍かけても収入は20%しかあがらない

結果的にファインカカオを生産すると収入は20%アップします。

逆に言うと時間的なコストを2倍かけ、発酵の管理をしたり、選別をしても20%しか収入が増えません。

さらにBean to Barはまだまだ市場としては非常に小さいため

メーカーが農園から買い取れる量も1トン〜10トンだけです。

バルクカカオの場合、100トン~1000トンという単位で買い取るので

現時点ではバルクカカオをつくったほうが農家にとっては圧倒的に生活が安定するのです。

 

支援ではなくモチベーションの高い農家さんに協力してもう必要がある

まとめると、いまのBean to Barのスタイルはほとんど農家の生活を向上させていません。

実際に量が伴った場合の話であり、現時点ではこれまでのバルクカカオの生産方法のほうが良いのです。実際に同じ村の中でも品質の高いカカオをつくっている農家さんに対して、「そんなものつくっても儲からないよ」と嘲る人たちもいます。

フーズカカオは「いいモノをつくりたい。インドネシアの他の地域、他のカカオ生産国に負けない品質の高いカカオをつくりたい。」そんな思いを持った農家さんと一緒に活動を行なっています。そんな農家さんと偶然出会えたからいいモノを日本に届けられます。確かに僕らは生産設備を貸与して農家さんを支援していますが、それは結果的に僕らのためであり農家さんのためではありません。

Bean to Barを否定するのではなく、現時点ではどうなっているんだっけ?を知って欲しいと思いこの記事を書いてみました。

品質の高いファインカカオがもっと市場で流通する世界になってほしいと切に願っていますし、これからも美味しいモノづくりを頑張ります。

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